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    (平成30年度 中本)

岡山理科大学プロジェクト研究推進事業
(平成30年度 中本)

モンゴルにおける民族の歴史と自然環境変遷の解析

 研究代表者

 理学部・動物学科 講師 中本 敦

 研究メンバー

 生物地球学部・生物地球学科 特担教授 星野 卓二
 生物地球学部・生物地球学科 准教授  那須浩郎
 生物地球学部・生物地球学科 准教授  宮本真二
 生物地球学部・生物地球学科 講師   矢野興一
 理学部・基礎理学科     講師   藤木利之
 理学部・動物学科      教授   清水慶子
 理学部・動物学科      准教授  小林秀司
 工学部・生命医療工学科   教授   猶原 順
 教育学部・初等教育学科   教授   高原 周一
 教育学部・中等教育学科   准教授  坂本 南美

 研究目的 

①背景と経緯
 2017年8月、岡山理科大学とモンゴル国立教育大学は、両大学の間で協力を推進するため、「日本国岡山理科大学とモンゴル国モンゴル国立教育大学における教育・研究交流協定」を締結した。締結に際しては、本学から柳澤学長をはじめ5人の訪問団がモンゴルを訪問し、現モンゴル国立教育大学Mandakh学長および関係の教職員とも会談し、調印式典に参加した。その際、モンゴル国立教育大学内の施設を視察し、互いに共同研究や教育の可能性について検討した。モンゴル国立教育大学には、教育分野だけでなく、植物、動物、自然環境を専門とした教員が多数在籍している。近年モンゴルでは、農耕を主体として生計を立てる国民が増加し、草原が農地として利用されるようになってきた。そのために、多くの場所で表土の流失および崩壊といった深刻な問題が生じている。また、家畜頭数がこの四半世紀に2.4倍も増加し、広範囲の放牧圧による生態系の変化が生じている。モンゴル国は今まで経験したことのない問題を抱えており、民族の歴史と自然環境の保全に関する研究は急を要する。このような背景から、大学間の共同研究は対象を一つの分野に絞るのではなく、モンゴルに暮らす人々を含む社会や生態系を捉える分野横断的な総合研究が重要である。また、同大学はモンゴル国内の80%近くの教員を輩出しており、初等教育から外国語として日本語を取り入れている小・中・高等学校も多い点から、教育における共同研究や交流においても多様な可能性を持っている。
 これらの経緯を受け、2017年12月、申請メンバーの一人である星野はモンゴル国立教育大学を訪問し、さらに具体的な共同研究プロジェクトのビジョンについて意見を交換した。Mandakh学長をはじめAriunbold生物学科学科長らと打ち合わせを行い、共同研究調査の具体的な計画について話し合った。
以上の経緯から、本プロジェクトでは、両大学間の交流協定で合意がなされた「1.両大学の学生、学部、学科は、直接、交流を行うことができる」「2.両大学は、互いに関心のある教育・研究の分野で協力する」という内容を充実させていくための教育・研究に関する交流を行っていけるよう、地域環境学の視点に基づいた研究に取り組みたい。

②研究期間内の目標
 以下の班ごとの個別目標をベースとした調査・解析を行う。
植物班 「モンゴル草原の植物相解析(植物目録の作成)」(星野・矢野):モンゴル草原に生育するカヤツリグサ科植物やイネ科植物は、家畜の主要な食料源であり重要な資源植物であるが、分類が困難なため系統分類学的研究が進んでいない。植物班においては、モンゴル草原の禾本科植物を中心とした植物相を明らかにすることを第1の目標とする。「モンゴル草原の植生変遷の解析」(那須・藤木):モンゴル草原の植生の成立過程は未解明であり、花粉化石群集の組成変化や、埋蔵種子の解析から、植生の成立史を明らかにすることを試みる。さらに、これらの自然の成立史と人間活動との対応関係を地理的に把握するために、「浅層堆積物中の埋没腐植土層からみる民族移動と土地開発史の検討」(宮本)において,遊牧民であるモンゴル人が13世紀初めに急速に発展し、広域な民族移動や土地開発を行った歴史を叙述し、その要因を検討する。

動物班 「モンゴル草原の動物相解析(動物目録の作成)」(小林・中本):環境の変化に対して大きく生息密度を変化させる小型哺乳類(主に小型齧歯類・食虫類)を指標とした分布・生息密度調査を実施することで、現在の草地生態系の健全性を評価する。さらに、「小型哺乳類や家畜に対する、生理学的、栄養学的、病理学的、生態学的な解析」(清水・小林・中本)においては、捕獲された個体や糞サンプルの寄生虫の感染状況や糞内容物の分析を行うことで、人獣共通感染症や種子散布などの生態系サービスといった動物と人との関係性についての知見を蓄積する。

環境班 モンゴル草原における開発の指標や発展の弊害として、近年、加速する鉱山開発による土壌や水の汚染を代表例として取り上げ、「モンゴルにおける土壌・水の汚染状況の評価」(猶原)を行う。選鉱、精錬施設を持たない個人レベルでの採掘では、金精製に水銀を使用するため、これらの作業従事者が水銀中毒を起こす可能性に加え、大気に放出された水銀が大気汚染のみ成らず、土壌汚染や水質汚染を引き起こしていると考えられる。このような個人レベルでの採掘が行われている場所の確認とその場所での土壌、環境水の採取と作業従事者の毛髪のサンプリングによって汚染状況の実態を把握する。

 以上の植物班、動物班、環境班の成果を踏まえたうえで、「モンゴルにおける持続可能な資源利用を享受するための暮らし」と「それを支える生物多様性の維持機構の解明」によって、「モンゴルにおける民族の歴史と自然環境変遷に関する総合的な調査」とする。これらの成果は、家畜により強い放牧圧のかかった地域と,弱い地域を比較することによってより鮮明になり、現在の環境保全に関する問題解決のモデルを提唱できる。
教育班 これまで遊牧生活や牧畜によって特徴付けられてきたモンゴルの暮らしにおいて、自然資源の利用と保護のバランス点を見出すための文化的な基盤とそれを生み出すもととなる教育システムの把握が将来的な展開において重要となる。「モンゴル教育の現状調査と地域環境に適合した教材の開発」(高原・坂本)においては、理科および外国語教育に焦点をあて、モンゴルの教育の現状を、教育機関での授業参観、アンケート調査、関係者へのヒアリング等により把握し、日本の教育と比較する。さらに、モンゴル教育大学の学生や児童生徒を対象とした授業等を実施した上で、生物班・環境班とも連携して、モンゴルの地域環境に適合した有効な授業デザインや教材を開発する。また、モンゴルの教育システムについても調査しながら、その教育環境に適した外国語学習の教材を開発する。これらの授業デザインや教材の効果について、モンゴル国立教育大学の教員や学生と共同し、地域の文化に即した様々な教育手法について効果を検証する。

③特色・独創的な点
 モンゴル国内における有用資源植物相や哺乳類相については、未調査な部分が多く、自然環境や生物多様性を研究、保全、利用する上で基礎となる、生物資源の分布情報等は未だ不十分である。さらに動植物の目録といった基礎的な科学的知見を得ることのみならず、これらの生物相を含めた自然環境の成立史に着目した研究は、これまで国内では実施されていない。国土開発が進展し、自然破壊の進行が強調される現在においても上記の視点は多くの場面でなおざりにされてきた。換言すれば、家畜や人類史における自然環境への影響を理解した上で、近年の鉱山開発によって引き起こされている経済発展と環境汚染まで含めて、将来的に議論しようとする本研究の試みは、結果として「実行可能な身の丈にあった環境政策」を提示できることが特色でもあり、独創的である。またモンゴル文化を支え、生み出してきた教育に、持続可能な資源利用への道を切り開くための新たな役割を模索する点は、これまでにない独創的な視点である。

 加えて、本プロジェクトに参加した教員は若手中心であり、すべて東南アジアを初めとする海外調査キャリアが豊富である。大学を主体とした海外調査団の派遣がほとんど実行されていない国内の現状において、岡山理科大学で初めてとなる海外調査団の派遣は、本学の教員や学生の研究熱を活性化させるだけでなく、そのインパクトは大学広報の一助になることが期待できる。

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