獣医学部 獣医学科 助教 嘉手苅 将
獣医学部 獣医学科 准教授 渡辺 俊平
獣医学部 獣医学科 講師 久楽 賢治
獣医学部 獣医学科 講師 神田 卓弥
理学部 動物学科 准教授 中本 敦
背景:特定の地域に動物が侵入・野生化して集団を形成すると、動物の疾病や病原体の保有率は自然のありようと大きく異なり、周辺地域の固有の動物や環境生態系に影響を及ぼす可能性がある。申請者らは環境省の依頼を受けて大久野島(島)のウサギ集団死の原因を人為的な傷害であると同定した。一方で他要因による死亡が多いことも疑っている。
目的・実施内容:島のアナウサギ(ウサギ)をモデルとし、半野生化した動物集団と、近辺の野生動物の疾病と病原体の保有状況を把握することで、周辺生態系への影響を評価すること、暴行死ウサギの病理学的特徴の解明を目的とし、次の3つを行う。
期待される効果:SDGsの目標3と15に寄与する他、適切な動物の管理に資すること、動物虐待による動物の解析法の知見として法獣医学に貢献する。
①本研究の背景と着想に至った経緯
広島県竹原市にある大久野島(島)は、瀬戸内海芸予諸島の1つで、1945年まで数十名が暮らしていたが、現在は定住者のいない無人島であり、島全体が瀬戸内海国立公園に指定されている。島には1971年、地元の小学校で飼育されていたウサギ(アナウサギ Oryctolagus cuniculus domesticus)8頭が放されて野生化し、2025年現在、約500羽が生息している。その経緯から、別名「うさぎの島」とも称され、2017年には17万人が来島してウサギに給餌するなど、観光地となっている。
一方、島のウサギに明確な所有者(管理者)が存在しないこと、ウサギの繁殖力の強さ、来島者の増加などに伴い、ウサギの健康状態、ウサギ・ヒト(来島者)双方間で生じうるの安全性などが危惧されている。この現状から、環境省を含む島の関係者らは「大久野島未来づくり実行委員会」を起立し、ウサギの適切な管理を含む島の保全に向けて課題解決に動いている。島のウサギに関連して、特に注視すべきは動物(ウサギ)固有の感染症および人獣共通感染症である。特に島のウサギのように、特定の地域に動物が侵入・野生化して集団を形成すると、動物の疾病や病原体の保有率は自然のありようと大きく異なり、周辺地域の固有の動物や環境生態系に影響を及ぼす可能性がある。そして、2024年11月より、ウサギの集団死が相次いだことから、申請者らは環境省の依頼を受けてその原因究明を行ったところ、人為的な傷害であると同定した。一方、他要因による死亡が多いことも疑っている。
②本研究の目的と研究期間内の目標
島のウサギをモデルとし、半野生化した動物集団と、近辺の野生動物の疾病と病原体の保有状況を把握することで、周辺生態系への影響を評価すること。あわせてヒトによる暴行で死亡したウサギの病理学的特徴の解明を目的とし、次の3つを目標とする。
A. 個体の病理学的解析:島のウサギと近辺の野生動物の主な死因を特定する。
B.島のウサギと近隣野生動物の病原体保有状況:島のウサギおよび島のウサギと接触しうる野生動物における動物固有および人獣共通感染症の病原体、抗体保有率を調べ、島のウサギが周囲環境の野生動物に与える影響を評価する。
C. 暴行死ウサギの病理学的特徴の解明:画像診断、病理解剖にて、暴行による病理学的特徴を解明する。
目標AとBにおいて、1年目で概ね島のウサギの主な死因を特定し、実際に発症を認める病原体や特別保有率の高い病原体など検索の有意性の高い病原体を定める。2年目には、これらの要因の詳細なアプローチと解決法について検討する。