生物地球学部 恐竜学科 助教 高崎 竜司
生物地球学部 恐竜学科 教授 實吉 玄貴
生物地球学部 恐竜学科 教授 辻極 秀次
教育推進機構 基盤教育センター 教授 青木 一勝
モンゴル科学アカデミー古生物学研究所
ジュラ紀後期〜白亜紀前期(J/K移行期)は、恐竜を中心とする陸上脊椎動物相が大きく入れ替わり、後の生態系の骨格が形成された転換点である。しかし陸成層では年代拘束と層序対比が難しく、地域差と時間差が混同され、動物相転換の速度・方向性の議論が不確実となっている。本研究は理大が継続調査するモンゴルHar Hotolを対象に、Sharilyn層・Tsagantsav層の化石記録、堆積相・層序、放射年代を同一枠組みで統合し、J/K動物相転換の実像を検証する。具体的に、露頭精査と柱状図作成、type locality再確認、標本の記載とマイクロCT、凝灰質層ジルコンのU–Pb年代測定と炭酸塩年代法の併用検証、必要に応じてタンパク質解析のパイロットを行う。成果として、高精度な層序・年代基盤の提示、国際比較可能な参照軸の構築、新発見標本の公開を通じ、理大のモンゴル恐竜研究を次段階へ押し上げ、将来の大型資金獲得と人材育成にも波及させる。
①本研究の背景と着想に至った経緯
J/K移行期(ジュラ紀後期〜白亜紀前期)は長期にわたって絶滅率が高い状態が続き、恐竜を中心とした陸上脊椎動物相から、鳥類や哺乳類などを含む現代型の動物相へのターンオーバーが始まった可能性が指摘されている。ところが当時の陸成層では年代推定と層序対比が難しく、見かけの“時代差”が地域差やサンプリング差に由来する可能性が残る。ゆえにJ/K移行期の動物相変遷の実像を捉えるには、単一地域で年代・層序・化石記録を一体として扱える研究基盤が不可欠である。
研究代表者はこの問題に対して、モンゴルにおけるジュラ紀後期から白亜紀前期の継続的な調査からアプローチしてきた(Chinzorig, Takasaki, et al., 2025; Nature)。研究代表者が新たに開拓し継続的に調査してきたHar Hotol地域では脊椎動物化石の産出を確認ており、J/K移行期における動物相変遷を同一地域内で検討可能なモデルケースとなり得る。しかし、本地域の年代が不確実であるため、科学的価値を正しく位置づけることが難しい。また、現時点で得られている化石は小型かつ断片的なものも多く、形態情報のみで詳細同定できる標本は限られている。
岡山理科大学はモンゴル科学亜科でもー古生物学研究所(IPMAS)との協定に基づく調査・標本管理・比較標本アクセス等の運用体制を整備し、モンゴル・ゴビ砂漠での国際共同研究を継続してきた。とくに後期白亜紀を中心に、化石記録の蓄積と堆積環境復元を進めると同時に、モンゴル陸成層に適用可能な年代学的アプローチを整備し、化石産出層への絶対年代挿入というボトルネックの解消を進めてきた。加えて本学では、形態情報に加えて化石に残存し得る有機物(タンパク質等)を対象とする分析技術の開発にも取り組んでおり、断片的標本の情報量を補完する手法基盤が整いつつある。以上の蓄積により、年代・層序・分類を同一フレームで扱う基盤が形成され、より古い時代へ研究対象を広げる条件が整いつつある。
このような背景の中、2025年度に研究代表者が岡山理科大学に着任したことを機に、本学が蓄積してきた後期白亜紀研究の成果と運用基盤、年代挿入や分子古生物学的解析といったモンゴル研究のボトルネックに挑む本学の技術的蓄積、そして研究代表者が継続してきた白亜紀前期〜ジュラ紀後期を対象とする研究計画が、単一のプロジェクトとして整合的に結びつく条件が整った。本研究は、本学ならではの蓄積と協同体制を梃子に、Har HotolのSharilyn層とTsagantsav層を対象として年代・層序・化石記録を束ね直し、J/K移行期の生物相変遷を国際比較に耐える形で提示するための第一歩として構想されたものである。
②本研究の目的と研究期間内の目標
本研究の目的は、モンゴルHar Hotol地域に露出するジュラ紀後期〜白亜紀前期(J/K移行期)の脊椎動物化石記録を年代・層序と一体で扱える形に整え、当時の脊椎動物相の変遷過程の汎世界的な比較基準軸を樹立することである。本助成期間では(i)分類学的同定の前進、(ii)層序関係と堆積環境の確立、(iii)絶対年代推定と既存手法の適用限界の検証、(iv)化石分子分析の実現可能性評価、という4本柱を、実行可能なところから確実に積み上げることを目標とする。