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    (平成30年度 草野)

岡山理科大学プロジェクト研究推進事業
(平成30年度 草野)

土と炎が織りなす芸術の科学

 研究代表者

 工学部・バイオ・応用化学科 教授 草野 圭弘

 研究メンバー

 工学部・バイオ・応用化学科 教授  福原 実
 理学部・化学科       准教授 佐藤 泰史

 研究目的 

① 背景と経緯
 備前焼表面には様々な色模様が現れるが、これらは柿右衛門様式に代表される上絵付けによる人為的な加飾ではなく、備前焼粘土と焼成時の燃料として用いられる薪の灰や作品との接触防止に用いられる稲わらとの化学反応により呈色する。また、登り窯内の酸素分圧により色調は大きく変化する。申請者らは、備前焼を代表する模様の一つである特徴的な赤色模様の「緋襷」について詳細に検討した結果、非常にユニークな結晶成長により模様が形成することを明らかにした(Kusano et al., Chem. Mater., 16, 3641, 2004)。すなわち、1200°C付近で備前焼粘土と稲わら中のカリウムの反応により生成した液相中に、コランダム(α-Al2O3)が析出し、冷却過程においてヘマタイト(α-Fe2O3)がコランダム粒子の端部にエピタキシャル成長することにより赤色模様となることを見出した。得られた結果を基に、試薬を用いて人工的に緋襷模様を作製することに成功しただけでなく、高温用赤色顔料の開発に成功した(特許第5622140)。このように、伝統技術の中にも先端材料の合成技術の開発につながる可能性がある情報が含まれている。
 備前焼の紫蘇色(図1)は、登り窯で焼成した場合にのみ現れ、電気炉で焼成した作品の表面には出現しない。紫蘇色は、赤松などの薪を用いて登り窯で焼成した場合にのみ現れることから、薪に含まれる炭素が作品の表面に付着し呈色すると考えられている。しかし、申請者らの予備実験では、炭素は検出されず、鉄を含む化合物(スピネル構造化合物)が生成していることを見出している。しかし、その生成メカニズムなどの詳細は明らかになっていない。この紫蘇色の形成メカニズムを明らかにし、人工的に再現することができれば、これまで登り窯で大量の薪を消費し、作家の熟練と経験によって作製されてきた備前焼が、電気炉にて再現性良く容易に作製することが可能となる。

② 研究機関間内の目標
 本研究ではまず、①備前焼作家から提供された紫蘇色の備前焼の試料片について、紫蘇色の構成相を解明する。備前焼作家によると、登り窯で焼成した作品表面の色調は、焼成時の雰囲気によって変化することから、薪に起因する炭素が付着することにより呈色すると考えられている。しかし、申請者らの予備実験において、これらの模様にも鉄を含む物質が生成していることを見出していることから、生成相を特定し、生成相と色調について明らかにする。③上記①で提供された試料片が焼成された登り窯の焼成温度および時間、焼成雰囲気を作家の協力を得て調査し、紫蘇色の形成条件を確立する。③で得られた結果を踏まえ、④雰囲気制御が可能な電気炉により紫蘇色の再現を試みる。⑤得られた試料の生成相および微構造を①で明らかにした結果と比較検討する。更に、⑥試薬による紫蘇色の再現および顔料としての応用を試みる。

② 特徴および独創性
 本研究の特色は、これまで注目されてこなかった伝統セラミックスを研究対象としている点である。粘土鉱物の構造解析、人工粘土の合成など、鉱物の研究は盛んに行われているが、伝統セラミックス分野の「やきもの」についてはほとんど研究されていないのが現状である。やきもの表面の色調は、熱処理温度・時間、焼成時の雰囲気、材料の成分などの制御要因が多いため研究対象とされてこなかった。備前焼模様は全て「窯変」であり、化学反応により形成するため、これらの形成メカニズムを解明することは、セラミックスにおける化学現象の基本であり重要である。本研究は、備前焼模様の色調と生成相や微構造との関連を明らかにするだけでなく、セラミックス全般の彩色技術への応用など先端セラミックス材料開発を試みる点が特徴である。このような芸術と科学を融合させた研究は、今後注目される研究分野である。

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