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    (2019年度 大坂)

岡山理科大学プロジェクト研究推進事業
(2019年度 大坂)

物理化学的アプローチによるナノセルロースの利活用技術の開発

 研究代表者

 理学部・化学科 講師 大坂 昇

 研究メンバー

 バイオ・応用化学科 教授 竹崎 誠

 研究目的 

① 背景と経緯:ナノセルロースは木材などの植物をナノメートル単位までの直径に解きほぐしたセルロー ス集合体である。セルロースから構成されながらも極度に配向した剛直な結晶部を多大に含むために、鋼鉄の1/5の軽さで5倍以上の優れた力学特性をもち、また、高熱伝導率かつ低熱膨張率などの極めて特徴的な性質を示す。加えて、高度に異方的な形状を有し大きな比表面積をもつことから少量の添加で大きな反応性を示す。特に、植物資源であることから日本の豊富な森林資源の有効な利活用技術になり得ると期待されている。これらの特徴を背景に、近年ナノセルロースを補強剤としてゴムや樹脂を高強度化させる試みが活発に行われている。
 研究代表者は、倉敷芸術科学大学の岡田賢治教授が主導する岡山県のおかやまバイオマスイノベーション創造センター(本年度で終了)に協力し、ナノセルロースによる高分子材料の高性能化・高機能化を進めてきた。また、岡田賢治教授も当センターにて成果をあげ、ナノセルロースの利活用技術に関する複数の特許を出願している。
 本プロジェクトでは、学内の物理化学系教員が参画してナノセルロースの高性能化・高機能化、複合化に関する基礎的知見を積み上げて成果を論文として出版する一方で、研究代表者が学外の岡田賢治教授を含めた元おかやまバイオマスイノベーション創造センターの研究員らと協力して上記既存の成果を継続・発展させて更なる特許出願や商品化を見据えた研究開発を行う。

② 研究期間内の目標:本プロジェクトで実施する具体的なテーマと目標は以下の通りである。
(1)難燃性リグノナノセルロース誘導体による難燃性複合材料の開発:おかやまバイオマスイノベーション創造センターで開発されたナノセルロースと植物由来のリグニンからなる難燃性リグノナノセルロース誘導体は難燃性を付与できるだけでなく樹脂や木材の力学物性を向上させることが期待できる。これまでに力学物性の向上は確認できたが、複合材料の難燃性の向上は十分でない。既に難燃性リグノナノセルロース誘導体の開発に関する特許は出願しているが、追加データの取得と難燃性を付与した複合材料の特許出願、さらには企業との提携などによる商品化を見据え、難燃性リグノナノセルロース誘導体に難燃性リグニンを複合化させた優れた力学物性と難燃性を両立した機能材料の創出を行う。
(2)疎水化ナノセルロースによる高強度かつ高熱伝導性高分子材料の開発:おかやまバイオマスイノベーション創造センターで開発された疎水化ナノセルロースと高分子との複合材料は樹脂単体と比べて高い熱伝導率を示すことが明らかにされている。さらなる疎水化とナノセルロースの高充填・高配向を行い、高強度と高熱伝導性の開発を進め特許出願や企業との提携による用途展開を行う。
(3)ナノセルロースによる物理ゲルの高性能化:研究代表者の大坂昇により、ゲルにナノセルロースを添加することでゲル化の促進や弾性率の向上が確認されている。本プロジェクトではゲル化過程や相互作用を制御してこのテーマをさらに進め、さらなる高強度化や医療用ゲルへの展開を行う。
(4)ナノセルロース-異型金ナノ粒子ハイブリッドの合成:本プロジェクトメンバーの竹崎誠教授は金ナノ粒子の形状やサイズを制御して棒状、三角板状や樹状粒子等の異型粒子を合成し、光吸収や発光促進作用(光電場増強作用)を大きく増幅できることを明らかにしてきた。本テーマでは異型金ナノ粒子に保護剤交換を行うことで生物適合性を付与してナノセルロースに配位させ、ナノセルロースの特徴の一つである大きな比表面積を利用して太陽電池やセンサーへの利用を見据えたさらなる高効率化を実現させる。

③ 特色及び独創性:ナノセルロースの利用はその高強度や粘弾性などの力学特性に主眼をおき補強剤としての利用が世界の主流になっている。しかし、本プロジェクトでは優れた力学特性の利用に加えて、ナノセルロースが本来有する大きな比表面積を介した機能化に着目し、難燃性や光電場増強作用などの独自の着想を基にナノセルロースの性質を最大限に発揮させることに最大の特色と独創性がある。特に、ナノセルロースの難燃化は倉敷芸術科学大学の岡田賢治教授を中心としたおかやまバイオマスイノベーション創造センターの成果の産物であり、この成果を継続・発展させていくことは本学園内のナノセルロースに関する特許や知見を育むだけでなく、岡山県が力を入れているバイオマス産業の創出・発展にも大きく寄与するものと期待できる。

④ 協働効果:高分子化学、表面化学、コロイド化学などの物理化学は優れた複合材料を創製するための基軸となる。本プロジェクトへの参画者は2名であるが、上記の研究領域を専門としており(研究代表者:高分子化学、竹崎誠教授:表面化学、コロイド化学)、試料の取り扱い、ナノセルロースの形態評価に欠かすことができない電子顕微鏡観察技術、物性評価を密に連携することが可能である。特に、高分子へのナノセルロースの分散には表面化学、コロイド化学が、ナノセルロースと金ナノ粒子との相互作用には高分子化学が有用であり、互いの専門領域を補完して強力に研究を進めることが期待できる。

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