工学部 バイオ・応用化学科 講師 奥田 靖浩
臨床生命科学科 教授 松浦 信康
岡山大学 異分野基礎科学研究所 教授 西原 康師
岡山大学 異分野基礎科学研究所 助教 森 裕樹
①本研究の背景と着想に至った経緯
分子同士を“ベンゼン”で結ぶ:ものづくりを革新する二分子連結戦略へ
有機化学において、異なる分子同士を結ぶ二分子連結は新たな分子を組み立てるために必要不可欠なプロセスである。このため 1800 年代の有機化学の幕開けから、“炭素-炭素結合の生成”を中心として様々な反応が開発され、目的化合物の合成が試みられてきた。しかし基質適用範囲の限界や反応性の乏しさ、副反応といった問題から未だに合成困難な誘導体が多い。この中で、2002年に銅触媒でアジドとアルキンを連結するトリアゾール合成が報告され (Fokin, V. V.; Sharpless, K. B. et al. Angew. Chem., Int. Ed. 2002, 41, 2596.)、この反応では特に優れた選択性を実現するため人工酵素や医薬品の開発に応用された。このようにアジドとアルキンは効率よく連結できることから本反応は『クリックケミストリー』と名付けられ“トリアゾール”で二分子連結する方法が広く浸透した。そこで申請者も工学部萌芽的研究でクリックケミストリーに関する研究を実施したが、銅触媒の細胞毒性やトリアゾール自体の汎用性の乏しさといった欠点を実感した。そこで今回申請者は、クリックケミストリーのようにベンゼン環を効率的かつ選択的に形成できれば、化学産業における二分子連結法を革新できると予見した。この新たな合成戦略を以下『ベンゼン環形成型クリックケミストリー』と命名し、本学独自のプロジェクト研究として新たな学術領域の開拓を提案する。
③本研究の目的と研究期間内の目標
ベンゼン環形成型クリックケミストリー:有機合成化学における新領域創出
本プロジェクトの目的は、申請者が着想したベンゼン環形成型クリックケミストリーを開発し、医薬品や材料など幅広い誘導体合成に応用することで、広く社会に貢献する合成戦略として確立することにある。ごく最近、申請者はアルキン 1 とフタラジン 2 にルイス酸やブレンステッド酸、有機光触媒やラジカルカチオン触媒を添加することで脱窒素型のベンゼン環形成が進行することを予備的に見出した 。この研究は、申請者の本年度の科研費申請“脱窒素型ベンゼン環形成クリックケミストリー”に関連する内容だが、本プロジェクトでは学内外との共同研究で更に多くの関連反応も開発し、標的活性をもつ化合物の合成法として応用する。例えば、出発原料にピロン 3 を用いたアルキンとの脱炭酸型環化が進行すれば、更に合成の幅を広げることができる 。また、シンナミルアルデヒド 4 とブタジエン 5 の脱水型環化を開発できれば、生体内でも利用できるクリーンな反応として利用できるであろう 。本プロジェクトでは一連の反応開発を完了し、生理活性物質や光電変換材料の開発シーズを獲得することで本学独自の学術領域として【ベンゼン環形成型クリックケミストリー】を創出する。