獣医部・獣医学科 教授 水野 理介
獣医学科 教授 岩田 惠理
獣医学科 教授 江藤 真澄
獣医保健看護学科 教授 大和田 一雄
①背景と経緯
超高齢社会のフロントランナーである本邦では、要介護人口の増加とそれに伴う医療費(6.7兆円 2007年度→10.8兆円 2017年度)の増加が喫緊の社会問題となっている。後期高齢者(75歳以上)の多くの場合、“フレイル”という中間的な段階を経て、徐々に要介護状態に陥ると考えられている。日本老齢医学会からのステートメントでは、フレイルとは、筋肉など運動器の脆弱化のような身体的問題だけでなく、認知機能障害などの精神・心理的問題などを含む概念とされている。近年、イヌ・ネコなどペットも超高齢化の一途をたどり、ヒトと同様フレイルに陥り、寝たきりなど要介護となることが顕在化している。申請者らのこれまでの研究から、イヌにおいて、フレイルに陥る前段階で治療介入することで、QOLの向上や健康寿命を延長できる可能性が示唆されている。そこで、本申請研究では、1)フレイル病態の解明と超早期診断法の開発を目的とし、さらに2)本臨床研究のEvidence-Based Veterinary Medicine確立のために以下研究を行う。
②研究期間内の目標
【研究項目1:イヌフレイルの生理的診断機器開発】:フレイルで起こる筋力低下を測定するために、「噛む力」に着目し、咬筋力の可視化を実現するデバイスの初期開発を行う。デバイスから得られたデータと臨床所見を照合し、イヌフレイルの超早期診断基準を策定する。
【研究項目2:イヌフレイル発症因子の解析】:フレイルへ病態の発症機構を解明するために、血液サンプルを用いて、DNAのメチル化、マイクロRNA、エクソソームRNA等を用いてエピジェネティック解析を行う。得られたデータは、生活環境や品種等の影響についても検討(Big data-AI-Deep learning)する。
③特色および独創性
本申請研究は、生命活動に必須の動作であり生きる活力の指標となる「噛む力」に着目して新しいフレイル診断方法を開発するとともにエピゲノムに着目して新しい分子マーカーを発見することが独創的である。獣医学部が理念として掲げている研究課題「One Medicine: 動物とヒトとの橋渡し」を実現するものである。
④協働効果
本研究計画は、獣医学科と獣医看護保健学科に所属する研究メンバーが議論を繰り返すことで立てられた。医・獣医用生体工学デバイス開発を水野が担当し、臨床的知見ならびに動物行動学による視点から岩田が検証する。同時に江藤がDNA・RNA解析を平行して行う。さらに、安全性評価を専門とする大和田が研究成果を検証して効率的なフィードバックを行う。すなわち、基礎と臨床の経験を持つ研究メンバーが協力して我が国の医学・獣医学に共通な最重要課題の一つである超高齢社会Society5.0に挑戦する。