獣医部・獣医学科 教授 宇根 有美
獣医学科 准教授 小野文子
獣医学科 講師 久楽賢司
①背景と経緯 現在、空前の猫ブームで、猫の飼育数が増加し、犬の飼育数を上回るようになった。加えて、放し飼い猫が街猫、地域猫などと称せられ、各地で増加し、社会問題化している。具体的には、放し飼い猫生息周辺環境の悪化(糞尿放置による臭い、汚染、騒音、闘争、被毛散逸など)、交通事故、島嶼部などの希少動物生息地での猫による捕食(種の保全への脅威)、さらに、種々の感染症による問題が起きており、動物衛生上では、放し飼い猫の寿命は4~5年とされ、飼育下猫の2分の1から3分の1程度で、横浜市や大阪市では年間5,000頭を超える所有者不明の猫の死体が回収され、その死因として交通事故以外に感染症が重要視されている。また、公衆衛生上では、最近、放し飼い猫との接触により、ヒトが重症熱性血小板減少症SFTSやコリネバクテリウム・ウルセランスによって死亡あるいは発症しており、SFTSの国内発症患者数は約400人と増え続け、さらに、猫のSFST 発症例は2018年10月末現在で71頭を数え、宮崎県では、発症ネコの治療に当たった獣医師と看護師が発症している。また、薬剤耐性菌対策は国際的に脅威となる感染症対策として喫緊の課題であり、人、家畜のみでなく、伴侶動物の調査研究は重要となっている。動物愛護法では、動物の適正飼育、終生飼育を義務付けているが、放し飼い猫の現状は程遠い。そこで、本研究では、放し飼い猫における病原体保有状況、感染症流行の実態を明らかにして、動物衛生上および公衆衛生上の問題を科学的データで示して、猫の適正飼育を促進することを目的とする。②研究期間内の目標 放し飼い猫の病原体保有状況を明らかにする。死亡放し飼い猫の死因を解明する。③特色及び独創性 申請者は今までの研究活動(厚労省科研費およびAMEDにおける動物由来感染症に関する研究)、社会貢献活動(地方自治体における動物取扱業法定研修の講師;東京都、神奈川県、横浜市など)によって築いた人脈や機関とのつながりから、入手しにくい検体を確保し、確実な方法で評価して、様々な機関を通じて(国、地方自治体、獣医師会など)効果的に情報発信できる点。④協働効果 専門性の異なる研究者による多角的側面からの検索で、より正確な確実なデータの収集が可能で、この協働体制は他の対象にも適用できる。実際、すでに実施ており、申請者が日常業務として行っている病性鑑定に際して、多種多様の動物を久楽先生に提供して、希少動物、病体の画像データを蓄積している。小野先生の進めている野生鳥獣リスクマネジメント(準正課)では、申請者は野生動物が罹患している疾病、病変の検索やアドバイスを行っている。