獣医部・獣医学科 助教 向田 昌司
獣医学科 講師 竹谷 浩介
獣医学科 助教 中村 翔
獣医学科 講師 松田 彬
生物化学科 助教 矢野 嵩典
① 背景と経緯:近年、腸内フローラ研究の進展が著しく、社会的にも大きな関心が寄せられている。その要因として、腸内細菌と宿主の免疫応答との関係について、数百種に及ぶといわれる腸内細菌の中から一菌種が特定されたこと、さらに免疫応答が分子レベルで解明されるようになったことなどが挙げられる。そして最近、この免疫応答が中枢神経系の活性に関与し、高血圧症や糖尿病といった生活習慣病から精神病発症や発達障害にまで関与することが報告され、研究領域が飛躍的に拡大している。
最近の循環系研究の中で、腸内細菌と高血圧症との関係に関する研究が注目されている。一例として、自然発症高血圧ラットSHRにおいて、「善玉菌であるビフィズス菌の減少」と「悪玉菌であるStreptococcus属の増加」により腸管で免疫応答が起こることで交感神経の活性が上昇し、結果として血圧が上昇するのではないかと報告された(Circ Res, 2017)。一方、SHRでは腸管の透過性が亢進することから、悪玉菌由来の細菌毒素が血圧調節に関わる臓器に直接作用し、高血圧を誘導している可能性も考えられる。実際、悪玉菌Streptococcus属の一種(B群溶血性レンサ球菌)に感染すると、この細菌毒素が肺に作用し、肺高血圧症の原因になりうる可能性が示唆されている(Proc Natl Acad Sci U S A, 2003)。しかしながら、細菌毒素と血圧との関係の詳細は解明されていない。
以上のような研究背景から、申請者らは「腸管透過性亢進を伴う高血圧症において、Streptococcus属由来の細菌毒素が、血圧調節に関わる血管・腎臓・脳などの臓器への直接作用、または免疫担当細胞による炎症性メディエーターを介した間接作用(炎症性障害)を介して血圧を上昇させているのではないか」との仮説を立て、その機序を分子レベルで解明することを目的とした(右図)。
② 研究期間内の目標:上記の目的を達成するために、また腸内フローラの改善が高血圧症の治療標的になりうるかどうかの可能性を検証すべく、以下の検討を行う。
(1)血圧調節に関わる血管、腎臓、脳(中枢)の機能に注目し、Streptococcus属由来の細菌毒素がこれらの臓器・細胞に対して直接的に炎症性反応を誘導するかどうかを検討する。
(2)細菌毒素が、免疫担当細胞に作用し炎症性メディエーターを誘導するかどうかを検討する。
(3)高血圧症モデルSHRにおける腸内フローラの改善方法を検討し、腸内フローラの改善が、細菌毒素/組織の炎症性機能障害/血圧上昇、の3者の関係に及ぼす影響を明らかにする。
③ 特色及び独創性について:本研究では、高血圧の発症機構について、「腸内細菌由来の細菌毒素を介する機能の変化」という新しい切り口から解明する点に特色および独創性がある。
④ 協働効果について:血液の循環は、いくつもの臓器により複雑かつ精密に調節されている。本研究では、血液循環に関わる臓器の専門家に加え、新たな標的となりうる微生物(腸内細菌)の専門家たちとの共同研究により本仮説を検証する。一人で行う研究では為し得ない、多面的視野から研究を実施する。