理学部 化学科 講師 高橋 広奈
理学部 化学科 教授 酒井 誠
愛媛大学大学院 理工学研究科 講師 石橋 千英
愛媛大学大学院 理工学研究科 教授 朝日 剛
①本研究の背景
岡山理大・酒井と愛媛大・朝日が中心となり「分光学」と「顕微鏡」の両者を融合させ、分子の事も形の事もわかる新しい観察手法を開拓してきた(岡山理科大学プロジェクト研究推進事業 21-22「マルチモーダル顕微鏡技術を駆使した生体内ナノ空間機能解析」)。このプロジェクトは 2022 年度には科研費基盤研究(B)(酒井)の採択に繋がるなど、新たな展開を迎えている。これらの研究推進においては2波長分光法と非線形光学(多光子)過程がキーとなっていたが、これを更に発展させた「多波長 – 多光子分光法」を用い、岡山理大・高橋は特に多波長に着目して共鳴 IR 法を、愛媛大・石橋は多光子過程を導入した時空間計測法を、それぞれ開発した。共鳴 IR 法(岡山理大・高橋)は、過渡蛍光検出赤外(TFD-IR)分光法と赤外超解像技術を組み合わせることで、蛍光分子のみの選択的赤外分光計測を実現したもので、従来は測定が困難であった水溶液中における蛍光性生体分子の赤外スペクトル測定に成功している【H.Takahashi et al. Chem. Phys. Lett., 758 (2020) 137942】。時空間計測法(愛媛大・石橋)においては、光エネルギー変換材料として注目されているジアリールエテンのナノ粒子にナノ秒パルスレーザーを照射すると、その光異性化反応が溶液系と比較して最大で 80 倍高効率に起こることを見出した【Y. Ishibashi et al. Chem. Comm., 56 (2020) 7088】。これは多光子 – 多分子の光応答を利用することで、反応効率を劇的に高める手法であり、新たな光エネルギー利用法として期待されている。
②本研究の着想に至った経緯
本プロジェクトでは、「多波長 – 多光子分光法」をキーに、生体試料内部における局所的な分子構造や光熱変換過程、分子ダイナミクスの解明を目指し、分子選択性と時空間分解能を極限まで高めた新規計測法の開拓にチャレンジする。
③本研究の目的と研究期間内の目標
本研究では、「多波長 – 多光子分光法を利用した新規計測法」を開拓し、生体試料内部における局所
的な分子構造や光熱変換過程、分子ダイナミクスを明らかにする端緒としたい。そこで第一に、同一生
体試料への共鳴 IR 法と時空間計測法による観測の実現に向けて、各チームにおいて「多波長 – 多光子」
をキーに分光法の改良・発展に取り組むとともに、生体試料への適用を考慮しての新規試料探索と基礎
データの収集を推進する(2023 年度目標)。第二に、それぞれの分光法からどのような情報が抽出可能
か精査するとともに、生体試料内部における、局所的な分子構造や光熱変換過程、分子ダイナミクスに
有用な分光法とは何かを検討する。これにより将来の新たな計測法の開発に繋げたい(2024 年度目標)。