獣医学部 獣医学科 講師 杉本 佳介
獣医学部 獣医学科 教授 北川 均
獣医学部 獣医保健看護学科 教授
生物医科学検査研究センター センター長 藤谷 登
工学部 生命医療工学科 准教授 小畑 秀明
獣医学部 獣医学科 准教授 神田鉄平
獣医学部 獣医学科 准教授
生物医科学検査研究センター 畑 明寿
獣医学部 獣医学科 助教 望月 庸平
獣医学部 獣医学科 助教 糸井 崇将
獣医学部 獣医保健看護学科 宮部 真裕
①本研究の背景
犬で最も多く認められる心疾患は慢性弁膜症であり、中年齢以上の小型~中型犬での有病率は50%以上である。慢性弁膜症は僧帽弁の変性によって逆流が生じ、それによる心拡大が起こる。病態が進行すると心不全となり、肺水腫や胸水貯留などを引き起こし、致死的となることがある。人においても慢性弁膜症は発症率の高い心疾患であるが、獣医療と医療では診断、治療方法、予後は大きく異なっている。
その理由の1つはヒトでは心エコー図検査や心臓バイオマーカー測定などを利用した早期診断や適切な定期検診が可能なことである。ヒトでは疲れやすくなる、動悸・息切れなどの自覚症状が現れ、自主的に病院を受診することができる。また、家族内に弁膜症の既往歴がある場合には、症状がない場合でも定期的な検査が行われる。一方、犬では加齢とともに発現するため、疲れやすくなったなどの臨床症状は加齢による変調と混同されやすく、飼い主ですら心疾患の症状に気づくことはほとんどない。加えて、ペットショップなどから購入することが多いため、家族歴が明らかであることはほとんどない。そのため、獣医療では早期診断を行うことは非常に難しく、動物病院来院時にはすでに心不全や末期の病態であることも少なくない。
ヒトと犬におけるもう1つの違いは治療方法の違いである。医療では前述のように心エコー図検査や心臓バイオマーカー測定を用いた細かな病態評価が行われており、診断結果に基づいた病態に合わせた治療が行われ、病態が軽度の場合には内服薬による治療が、重度の場合には手術による根治治療が行われる。獣医療では、これまでに慢性弁膜症について多くの研究が行われているものの、その多くは内服薬の有効性の検討であり、その根拠としては心エコー図検査のパラメーターが多く用いられている。しかし、心エコー図検査は比較的高額な機器が必要であることや検査者の技量によって診断価値が大きく変動するなどの問題があるため、心臓バイオマーカーのように技術的影響を受けにくい検査指標の開発が必要と考えられる。しかしながら、獣医療では心臓バイオマーカーを利用した正確な病態評価方法は未だ確立されていない。また、外科治療には人工心肺などの特殊機器が必要であり、加えてヒトと比較すると犬は体格が非常に小さいため、外科治療が可能な施設が限られており、外科治療の有効性に関する報告もほとんど行われていない。
②本研究の着想に至った経緯
本研究により、心臓バイオマーカーによる犬の弁膜症の早期診断、病態評価が可能となれば、より早期からの治療が可能となることに加えて、病態に合わせた治療が可能となると考えた。さらに、外科的治療の有効性が証明されることで、たとえ病態末期であったとしても慢性弁膜症の犬を救うことが可能となると考えた。以上のように、本研究を行うことで、慢性弁膜症犬の治療の幅は大きく広がり、より多くの患畜を救うことが可能となる。
③本研究の目的と研究期間内の目標
本研究では、犬を用いて弁膜症モデルを作成し、1.心臓バイオマーカー検査の有用性の検討、2.犬の外科治療の有効性の検討を行うことを目的とする。