獣医学部 獣医学科 准教授 伊豆 弥生
研究・社会連携機構 フロンティア理工学研究所 講師 岩井 良輔
情報理工学部 情報理工学科 教授 李 天鎬
愛媛大学 プロテオサイエンスセンター 教授 今井 祐記
①本研究の背景
超高齢社会に突入した我が国では、転倒による寝たきりリスクを増加させる運動器疾患の病態解明が社会的医療課題である。中でもアキレス腱断裂や腱鞘炎、四十肩・五十肩といわれる腱板断裂など腱疾患は整形外科疾患の上位を占める。しかしながら、腱制御メカニズムは不明な点が多く、温存または外科的手術以外の治療法の確立には至っていない。本研究では腱の基礎的研究基盤の構築を目指す。腱はI型コラーゲン線維を主要構成成分とする線維が階層性に集合した結合組織であり、これが伸縮することで、筋で発生するメカニカルストレスを骨に伝え運動能を制御する。驚異的な跳躍力を持つように進化したカンガルーの腱は極めて伸縮性と耐久性が高い。一方、腱・靭帯の機能障害を主徴とするエーラスダン ロス症候 群モデル マウス の 腱は 剛性が高く 断裂しや すい (Fukusato and Izu et al. J.Clin.Med.2021)。研究代表者は、このような力学特性が低下する原因として、腱を区画化する腱周囲膜の形成不全による階層構造の形成障害を見出し(Izu et al. Matrix Biology 2020)、腱構造の違いが力学特性の違いを生み出し、運動能に影響を与えることを見出した。しかしながら、運動能力の違いは腱構造で規定されているのか、また筋力の変化で腱構造と力学特性は変化するのかなど、φ力学応答による腱制御メカニズム(腱メカノバイオロジー制御機構)は不明である。この問いに答えるため、研究代表者は、動物では種により特徴的な運動パターンを示すことに着目し、動物の運動性(動き)と腱構造とを関連づけることで、メカニカルストレスの違いによる腱構造変化を明らかにできると考えた。また、筋力を変化させた状態で腱構造と力学特性を解析できれば、力学応答による腱制御メカニズムを解明できると考えた。
②本研究の着想に至った経緯
本研究では、さまざまな動物を用いて動きに適した機能的腱構造を明らかにするとともに、遺伝子改
変マウスモデルを用いて筋力負荷による腱構造と力学特性を制御するメカニズムを明らかにする。これ
により「腱研究基盤の構築」と「腱メカノバイオロジー機構」を解明することを提案する。
③本研究の目的と研究期間内の目標
本研究は、「腱」という物理学的特性と生物学的特性を有した複雑な器官の形成・維持と機能獲得の制御メカニズムを明らかにしようとするものであり、多角的な視点によるアプローチが必須である。そこで研究代表者が 2021 年度プロジェクト研究推進事業ならびに獣―工連携事業、並びに愛媛県内共同研究を通じて構築してきた研究基盤を集結し、獣医学−理工学−情報学−医学からなる学際的共同研究を行うことで「腱メカノバイオロジー機構の解明」に挑むことを目的とする。マウス、ウサギ、イヌ、ネコなどの運動動画解析(情報理工・李天鎬教授)と腱組織学的解析を行い(獣医・伊豆)、得られた結果を基盤として力学機能を備えた 3D 腱-筋複合体モデルを開発し(フロンティア理工・岩井良輔講師)、運動機能に適した腱構造を解明する。次に、腱特異的に腱周囲膜形成を障害する新規モデルマウスの解析(伊豆・愛媛大学・今井祐記教授)と 3D 腱モデル解析から(岩井)筋力維持下での腱特異的構造制御メカニズムを解明する。さらに、筋萎縮モデルの腱機能解析から(今井・伊豆)筋力低下による腱機能制御機構を解明する。