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    (2024年度 新井 )

岡山理科大学プロジェクト研究推進事業
(2024年度 新井 )

拒絶反応の少ないイヌ間葉系幹細胞他家移植療法の確立

 研究代表者

 獣医学部 獣医学科 助教 新井 清隆

 研究メンバー

 獣医学部 獣医学科 助教 酒井 治
 獣医学部 獣医学科 助教 小林 宏祐
 獣医学部 獣医学科 助教 村上 康平
 獣医学部 獣医学科 准教授 松田 彬

 研究目的 

①本研究の背景と着想に至った経緯

 近年、医学や獣医学の再生医療分野において、間葉系幹細胞 (Mesenchymal stem cell:MSC)を用いた治療が臨床応用されつつある。間葉系幹細胞は脂肪、骨髄、および臍帯などに含まれる幹細胞であり、組織修復を促す因子を多量に分泌する能力を有する。この細胞を増殖させてから大量に体に投与し、損傷部位に一定期間生着させることで組織修復を促すことが可能となる。この治療法は簡便であり、脊髄損傷性疾患、骨癒合不全、変形性関節症、半月板損傷、自己免疫疾患、肝機能障害、アトピー性皮膚炎など様々な難治性疾患に応用可能という点で大変優れているが、一方で大きな問題点がある。それはMSCが培養細胞であるため、細胞を分離し、増殖させ、患者(患畜)に投与するまで大変時間がかかるということである。先に挙げた疾患は進行性の疾患であり、基本的に治療は早期に開始するべきである。この問題を解決するために現在、獣医学分野では同種他家移植療法が行われている。その名の通り、同種は種を揃えたという意であり、他家は別個体という意である。すなわち、あらかじめ健康なイヌからMSCを分離し、凍結保存しておき、患畜犬に投与する際に解凍し、直ちに投与治療を開始するという戦略である。しかし、この手法は、自家ではなく別個体の細胞を用いるため、どうしても移植した細胞がレシピエント(細胞を移植される側)の免疫に異物と認識され、移植拒絶反応を起こしてしまうという欠点がある。治療効果を高めるためには、移植したMSCが長期間レシピエント内で生存し、組織修復を促す因子を分泌し続ける必要があるにも関わらず、他家移植では移植されても早期に免疫応答が生じ、排除されてしまうことで治療効果が十分に得られないと指摘されている。免疫抑制剤の使用も検討されているが、副作用があることに加え、動物では服用させる手間や経済的問題がある。この問題を解決するために本プロジェクトでは、移植する前に移植拒絶反応に関わる主要組織適合性複合体 (Major histocompatibility complex: MHC) 遺伝子型を調べ、レシピエントと適合するMSCを移植するという治療戦略を考案し、その有効性および安全性を評価する。本プロジェクトの手法を用いれば、MSCがレシピエントの免疫応答によって拒絶されず、治療効果を十分に発揮することが可能になると考えられる。
 2023年、イヌにおいて高頻度に共有されるMHC遺伝子型が同定された。この発見によって、高頻度に共有されるMHC遺伝子型を有する移植治療用MSCをいくつか(9-10細胞株)用意できれば、過半数のイヌを網羅できることが明らかとなった。すなわち、MHCが適合したMSCを移植するために、何百という種類のMSC細胞株を凍結保存しておくのではなく、MHCが適合しやすいMSCを少数選別するという戦略が可能となった。このような効率化は医療シーズを実用化する上で極めて重要であるが、MSCを選別するためには多数の個体からMSCを含む成体組織を得る必要がある。そこで我々は、獣医療で通常廃棄される臍帯をMSCの由来組織として選択した。臍帯組織であれば、あらゆる犬種から倫理的かつ効率的に収集可能である。

②本研究の目的と研究期間内の目標

 本研究の目的は、MSCのMHC遺伝子型を調査し、レシピエント(細胞を移植される側)の免疫系に拒絶されにくい臍帯由来MSCを移植治療用に選別すること、そして脊髄損傷、骨癒合不全、免疫介在性疾患、アトピー性皮膚炎といった難治性疾患の罹患犬に移植し、その有効性と安全性を評価することである。これによって、免疫系を考慮しない通常のMSC移植治療よりも効果の高い細胞移植治療の確立を目指す。本研究期間では、1年目に様々な犬の臍帯からMSCを治験グレードで分離する。分離したMSCのクオリティーをチェックし、免疫系に拒絶されにくいMHCを有するMSCを選別する。前臨床試験を経たのち、2年目では本学獣医学教育病院において、安全性確認に主眼を置いた第I相試験を開始する。安全性が確認された後、有効性試験に主眼を置いたII相試験、大規模試験としてIII相試験まで実施することを想定している。

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