理学部・臨床生命科学科 教授 片岡 健
理学部・臨床生命科学科 教授 中村 元直
理学部・応用物理学科 教授 川端 晃幸
工学部・バイオ・応用化学科 教授 安藤 秀哉
工学部・生命医療工学科 准教授 二見 翠
理学部・生物化学科 講師 河野 真二
①背景と経緯
皮膚は体の表面を覆う最大の臓器であり、また組織細胞の治療応用が最も進んだ臓
器でもある。事故や熱傷による皮膚組織の欠損に対して、患者自身の皮膚や同種・異
種の培養皮膚が医療現場で利用されている。また皮膚の外層を構成する表皮細胞は単
に被覆するための細胞ではなく、外界に開いたアンテナとして情報収集しながら生体
防御にも深く関わっていることが近年明らかになりつつある。
皮膚組織の再生研究を進めるため、研究代表者・片岡(申請者)は胎児マウスの皮
膚より調整した表皮細胞と真皮細胞を免疫不全マウスの背部へ移植すると、3週間で
完全な皮膚組織が形成されるマウス皮膚形成モデルを開発した(図1)。さらに表皮細胞、真皮細胞に血管内皮細
胞と間葉系幹細胞を加えて混合培養したところ、72時間で凝集塊を形成した。現在、この培養内で形成された細
胞凝集塊の潜在的な組織形成能について、詳細な検討を進めている。
また、研究分担者の中村・安藤はヒト皮膚細胞に有害物認識に関わるであろうセンサー分子が存在しているこ
とを最近突き止めた。このセンサー分子は皮膚が触れる可能性のある外界由来の有害物を感受し、排除のための
機構を作動させると予想する。実際にこのタンパク質が発現している株化皮膚細胞に刺激物質(有害物)を投与
すると細胞が応答し、活性化することを確認している。こうした分子の皮膚特有の生理学的機能が明らかにされ
れば、生体内で再生させた皮膚組織の質的な評価手段の1つとなる。
本研究プロジェクトは現在進行中の2つの上記学内研究を基盤として発想した。中村らが発見した皮膚細胞にお
けるセンサー分子の発現も指標の1つとし、人工的に制御したハイパー表皮細胞を作成後、その細胞特性を詳細
に検討する。また片岡を中心として3次元組織を形成するグループを編成し、多様な細胞を付加したハイブリッド
皮膚組織形成のプロトコールを完成させる。両研究の研究成果を融合し、皮膚組織をモデルとして新規な機能を
付加したハイパー細胞を用い、正常細胞とのハイブリッド型組織を完成させ、将来の再生医療応用を目指す。
②研究期間内の目標
ヒト皮膚細胞におけるセンサー分子の発現確認とともに、このセンサー分子が異物を認識した後の細胞内応答
や異物排除までの機構、さらには免疫系とのクロストークなどを解明する。またマウス3次元皮膚組織形成モデ
ルに異種動物細胞など多様な細胞を付加したハイブリッド皮膚組織を形成させるプロトコールを完成し、動物実
験によってその有用性を評価する。
③特色および独創性
皮膚細胞に発現する異物センサー分子が外界からの有害物浸入を察知・排除する働きを持ち、生体防御の一翼
を担うことが証明されれば、自然免疫や獲得免疫機構と並ぶ新たな防御機構の提唱に繋がる。また異種動物細胞
を含む多様な細胞を付加した皮膚組織形成に正面から取り組んだ研究は、代表者が有するマウス皮膚組織形成モ
デルがあって初めて可能な非常に独創的なアプローチである。この方法により、例えばマウスの背中にニワトリ
の羽毛を形成させるなど斬新な実験が可能であり、実際にそのような予備実験を進めている。このように既に進
んでいる研究自体に独創性がある本研究プロジェクトは、シンプルではあるが本学以外にはあり得ない唯一の研
究と考えられる。