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岡山理科大学プロジェクト研究推進事業(平成28年度 大藪)

小売企業のサービス提供と顧客経験のダイナミズムの解明

 研究代表者

 総合情報学部・社会情報学科 准教授 大藪 亮

 研究メンバー

 総合情報学部・社会情報学科 教授 山口 隆久
 総合情報学部・社会情報学科 教授 黒田 正博
 総合情報学部・社会情報学科 教授 森  裕一

 研究目的 

 ①背景と経緯
  「おもてなし」という言葉に代表されるように、感動や満足感といった心理的あるいは感覚的な価値を顧客に
 提供するために、素晴らしい利用体験をデザインすることが企業や組織に求められるようになっている。例え
 ば、東京ディズニーランドは、アトラクションや人気キャラクターを園内に配置することで、顧客に非日常的体
 験を提供する。しかし、それは、アトラクション単体で実現されるものではなく、顧客の体験には、テーマパー
 クの雰囲気や施設など体験に関係するすべてのものが含まれる。また、その体験を評価するのは、サービスを提
 供する企業ではなく顧客となる。このような満足感などのポジティブな感情を得るために行う、顧客の全体的な
 消費行為および評価行為を顧客経験と本研究では定義する。近年、多くの企業が顧客経験に注目するのは、顧客
 満足度や企業業績(売上)と顧客経験が密接に関係するからである。したがって、上記のような特定の産業だけ
 でなくメーカーや流通業においても、顧客経験の重要性が認識されつつある。
  本研究の対象となるアパレル小売企業では、数年前から、顧客経験に注目し、ショップ店頭に加えソーシャル
 ネットワークサービスを活用することによって、オシャレなファッションスタイルという経験を提供する取り組
 みを行っている。しかし、顧客は自身の日常生活においてファッションを楽しむため、それらに関する顧客経験
 は同一スタイルのファッションであっても顧客毎に異なることが、申請者とアパレル小売企業が実施した予備調
 査から明らかとなっている。したがって、効果的なマーケティング活動を計画するためには、顧客がどのような
 ファッションに関する経験をしているのかについて理解し、その顧客経験に影響を与える要因を解明することが
 必須であり、アパレル小売企業の課題となっている。   これまで、顧客経験に関する研究は、サービスやマーケティング分野においてなされてきた。
 その研究の特徴は、
 (1) 顧客経験は、企業と顧客が直接的に触れ合う場において提供される
 (2) 顧客は企業が事前に設計した経験を受動的に体験する
 と捉える点にある(Berry et al., 2002; Payne et al., 2009)。しかし、ファッションに関する顧客経験は、顧
 客と企業が直接的に触れ合う場(店頭)だけでなく、顧客の日常生活においても出現している(大藪[2013])。
 そして、他者の存在や過去の経験等において、顧客自身の中で独自に意味付けされたり、時間経過に伴い変化し
 たりすると考えられる。しかし、これまでは、ある時点の顧客経験を対象とする研究が多く、その分析の枠組み
 に時間軸を取り込んだ上で、顧客経験を理解しようとする研究は少ないことが指摘される(Walter and Edvar
 dsson, 2012)。そこで、本研究では、企業・顧客間で直接的にサービスが提供される現場だけでなく、顧客の
 日常生活にも注目する。このとき、それらの中で、どのような顧客経験が出現し、どう変化するのか、また、そ
 の変化を引き起こす要因とは何かといった顧客経験のダイナミズムの解明を行う。したがって、この研究は、マ
 ーケティング研究および実務における課題にアプローチするものとなる。

 ②研究期間内の目標
  そこで、本研究では、これまでの研究や調査を踏まえ、顧客経験のダイナミズムの解明を目指す。そのため
 に、本研究において、次の2つの課題解決を研究期間内の具体的目標とする:
 課題1: 顧客の日常生活において、どのような顧客経験が出現したのかを明らかにし、それらを分類すること
 課題2:課題1で明らかとなった顧客経験に影響を与える要因を明らかにすること
  課題1については、社会科学で多く活用される仮説探索的アプローチを採用する。分析方法には、近年、経営学
 において注目されるグラウンデッド・セオリーを活用する。具体的には、顧客20名に対するヒアリング内容につ
 いて、すべて録音・文字起こしを行い、各研究者は、定性データ分析ソフトを活用しながら、インタビュイーの
 発言を詳細に分析することで顧客経験に て、関する抽象概念を生成し、それらの概念間の関係を整理・分類し
 ていく。次に、概念や関係について研究者間で議論し修正する。また、その結果について第三者から評価やアド
 バイスを受けることで、客観性を保ちながら研究を進めることができる体制をとる。
  課題2については、課題1で得られた仮説を実証的データから検証していく。ファッションに興味・関心のある
 顧客700名を対象とするインターネット調査を実施し、そのデータを統計的手法により分析することで顧客経験
 に影響を与える要因を明らかにする。調査の回答項目には、回答選択肢の中から回答してもらうプリコード回答
 に加え、回答者が自由に回答できる自由記述も含める。自由記述文の中には、回答者ごとの顧客経験に関する情
 報が含まれており、これにデータマイニング手法を用いることで、個々人の顧客経験に影響を与える要因を明ら
 かにすることが可能になる。この結果とプリコード回答データの統計解析から得られる集団としての要因分析の
 結果を組合せることで、課題2の解決を図る。

 ③特色および独創性
  本研究の最大の学術的特色は、分析範囲を顧客の日常的領域まで拡張した点にある。これまで顧客経験に関す
 る研究は、企業と顧客が直接的に触れ合う場(サービスを提供する現場)のみを研究の対象としてきた。という
 のも、顧客経験研究は、サービス・マーケティング研究の一部として発展してきたからである。これまでのサー
 ビス・マーケティング研究は、レストラン・サービスのように、企業によるサービス提供と顧客によるサービス
 消費が同時に起こる現場に注目し、サービスの同時性から発生する問題(例えば、サービスの品質維持)をどの
 ようにマネジメントするかに研究上の関心がある。しかし、既に述べたように、顧客経験はサービスが提供され
 る場だけでなく、顧客の多様な日常生活において実現していることを考えると、分析対象を顧客の日常生活全般
 に拡張する必要があると考える。   さらに、マーケティング研究者だけでなく、統計研究者をプロジェクトメンバーに加えることも本研究の特色
 である。彼らには、本研究課題で解決のために実施するアンケート調査から回答者の動向が正確にデータで表現
 されるようにするため、調査項目と質問形式等を決定する質問表の設計から参加してもらう。さらに、データ収
 集と有用な情報を抽出するための統計解析を行う。これにより、マーケティング研究の成果に客観性を持たせ、
 研究結果の妥当性と正当性を与えることを試みる。厳密な調査計画のもとで、質問表の作成からデータ解析まで
 を実施する点も本研究の特徴と言える。このように、多角的な視点から企業のマーケティング活動や消費者行動
 へアプローチする研究は強力である。また、異分野の研究者がそれぞれの知識を持ち出し共同研究するこのプロ
 ジェクトでは新しい視点からの知見が期待でき、この研究意義は大きくかつ独創的であると考えている。
  また、本研究は実務的貢献も期待される。既に述べたように、顧客経験は、サービス提供の現場だけでなく顧
 客の日常生活においても実現・変化していると考えられるが、実際のマーケティング活動は、必ずしも、顧客の
 日常生活をターゲットに策定されているわけでは無い。したがって、本研究によって、どのような顧客経験が生
 まれているのか、どのような因子が個々の顧客経験に影響を与えているのかが明らかになることで、企業は、素
 晴らしい顧客経験の実現を促進するマーケティング活動を策定したり他社よりも優れたサービス提供をすること
 が可能となる。

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