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    (2021年度 向田)

岡山理科大学プロジェクト研究推進事業
(2021年度 向田)

腸内細菌管理による妊娠高血圧腎症の治療法開発に向けた基盤的研究

 研究代表者

 獣医学部 獣医学科 助教 向田 昌司

 研究メンバー

 理学部 生物化学科  助教 矢野 嵩典
 獣医学部 獣医学科 助教 中村 翔
 獣医学部 獣医学科 助教 宮前 二朗
 獣医学部 獣医学科 准教授 松井 利康
 愛媛大学大学院 医学系研究科 助教 外山 研介

 研究目的 

①本研究の背景
 妊娠高血圧腎症は2~8%の妊婦に発症し、これに起因する母体死亡は世界で年間30,000人と予測されており、妊産婦死亡の主要因となっている。本疾患の病態メカニズムは、胎盤形成時に起こる異常な炎症反応が引き金となり、母体の血圧上昇を引き起こすという説が定着しつつあるが、未だ根本的な予防・治療法はない。一方、母体の高血圧は、出生児の低体重や発達障害の原因になるとともに、将来的な疾患発症リスクになりうることが示唆されている。最近、申請者らもこのテーマに取り組み、妊娠高血圧腎症は「遺伝的素因と相互作用し、出生児の循環器疾患発症リスクを増強する」という動物実験の知見を得てきた(Hypertension, 2019)。母・児の健康の観点より、予防・治療法の開発研究の進展が強く求められている。

②本研究の着想に至った経緯
 最新の報告によると、妊娠期の高血圧患者において腸内細菌叢の変化が認められるが、その糞便をマウスに移植することで、マウスにおいて同様の症状を引き起こすという実験結果が示され注目されている(Gut, 2020)。患者の糞便を移植されたマウスでは、「腸管バリア機能の低下」や「ヘルパーT17(Th17)細胞の増加などの異常な免疫応答」が認められるが、同様の病態は一般的な本態性高血圧症においても観察される。そのため、腸内環境への介入によって腸管バリア機能ならびに免疫応答の制御が出来れば、高血圧性疾患全般の新たな治療法になりうるのではないかと期待される。
 そこで申請者は予備実験において、本態性高血圧ラットSHRの腸内細菌叢解析(16S全長アンプリコン解析)を行ったところ、Ligilactobacillus(旧LactobacillusmurinusL. murinus)の細菌数が顕著に減少することを見出した。なお本菌種は、腸管保護作用(Microbiome, 2018)やTh17細胞の制御作用(Nature, 2017)を有することが報告されている。
 以上の研究背景から、申請者は「L. murinusは、①腸管保護作用を持つとともに、②Th17細胞の制御により妊娠高血圧腎症で起こる炎症反応の原因を取り除くのではないか?」との仮説を立てた(図1)。本研究では、特に重症な加重型妊娠高血圧腎症モデルを対象に、L. murinusの経口投与が母体動物に対して有用であるかどうかを検証する。

③本研究の目的と研究期間内の目標
 本研究は上記仮説の検証を目的として、初年度は主に母体への影響を、次年度は主に胎児への影響についての検討を行う。各年度の具体的な目標を以下に示す。

初年度(2021年度)の目標:

 妊娠高血圧腎症の複雑な臨床病態を考慮して、特に重症であり、単一の遺伝子異常によらない自然発症型の加重型妊娠高血圧腎症モデルを用いて、腸内細菌L. murinusの有用性について詳細に検討する。

(1)加重型妊娠高血圧腎症モデルの病態評価; 加重型妊娠高血圧腎症モデルを作製し、本疾患の特徴的所見ならびに腸管機能、免疫応答の変化を検討する。

(2)妊娠高血圧腎症モデルに対するL. murinus投与実験; 本菌種の投与が妊娠高血圧腎症モデルの症状に及ぼす影響について検討し、腸内における本菌種の代謝産物を測定する。

(3)本態性高血圧モデルに対するL. murinus投与実験; 上記の妊娠モデルに加え、本態性高血圧に対する本菌種の影響を検討する。

次年度(2022年度)の目標:

 妊娠高血圧腎症は、母体への影響に加えて、出生児の低体重や将来的な疾患発症リスクの原因にもなりうる。次年度は、L. murinus投与が産まれてくる仔ラットの発育および疾患発症リスクに及ぼす影響を検討する。また高血圧患者における腸内Ligilactobacillus属と腸管バリア機能との関連についての検討を行う。

(4)L. murinus投与の妊娠高血圧腎症ラットより出生した仔ラットの発育および疾患発症リスクの検証; 母体への本菌種の投与が、仔ラットでみられる発育不良や腎機能障害、血圧上昇に及ぼす影響を詳細に検討する。仔ラットは初年度のモデルより出生するラットを使用する。

(5)L. murinus投与の正常妊娠ラットより出生した仔ラットの発育および疾患発症リスクの検証; 本菌種が正常な母体に及ぼす影響及び仔ラットに及ぼす影響を検討する。

(6)ヒトの高血圧と腸内Ligilactobacillus属との関連性の検証; 高血圧患者の糞便サンプルを用いて、血圧/L. murinusとその近縁種/腸管バリア機能、との関連を明らかにする。

 

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