生物地球学部・生物地球学科 教授 石垣 忍
生物地球学部・生物地球学科 教授 西戸 裕嗣
理学部・応用物理学科 教授 豊田 新
理学部・基礎理学科 教授 小林 祥一
自然科学研究所 教授 兵藤 博信
生物地球学部・生物地球学科 教授 能美 洋介
理学部・臨床生命科学科 教授 辻極 秀次
理学部・動物学科 准教授 高橋 亮雄
生物地球学部・生物地球学科 講師 實吉 玄貴
理学部・基礎理学科 講師 青木 一勝
自然科学研究所 准教授 今山 武志
①背景と経緯
モンゴル国は、白亜紀の非常に保存の良い恐竜化石を大量に産出する産地を擁することで、世界的に有名であ
る。しかし、1)産出層の正確な年代測定や堆積学的検討が進んでいない、2)新しい技術・手法を導入した化
石研究が進んでいない、という二つの大きな研究課題がある。1)のために、当該白亜系の層序確立や国際対比が
できず、生物進化史や環境変遷史の解明も遅れ、他の地域、例えば北米と比較した議論を困難にしている。2)
については、稀有な保存の良さと産出量という優位性があるにも関わらず、この特性を活かした組織学的研究や
生態学的研究が進んでいないという問題につながっている。モンゴル国科学アカデミー古生物学地質学研究所(
以下IPG)は、これらの課題の克服を期して国際共同研究を希望している。
一方、岡山理科大学(以下本学)は2013年に、林原自然科学博物館(岡山県 1992-2015)の研究事業を引
き継ぎ、同館とモンゴルの共同調査収集標本約7000点への研究権限を継承した。本学とIPGは研究教育協力協定
を締結し、2014年から少数ではあるが、学生も参加して共同調査を実施している。IPGは、学術協力だけでなく
日モ双方の学生が共に現場で学べる共同調査を希望している。このように「モンゴルでのフィールド調査権を持
ち、かつきわめて豊富で保存のよい標本にアクセス可能」という利点を生かせば、「国際的な研究教育協力が実
現可能」という他大学にはない大きな優位性を本学は有している。
かねてから地質年代学分野、ならびに鉱物の物性物理学的、化学的分析による鉱物科学分野において、本学は
世界的に優れた研究実績を誇る。また、恐竜と現生生物の行動学、比較形態学、病理組織学など、生理と生態の
研究に関しても豊かな実績を持つ教員を擁し、研究の集積と国際的な連携がある。これら本学の得意とする学際
的かつ先進的な研究手法を用いて、モンゴル標本群の解析と野外調査を行えば、地質学と古生物学の両面で世界
に発信する成果が期待される。IPGは、他国との共同研究強化をはかる上で、既に実績のある岡山理大との協力
関係推進を強く望んでいる。
②研究期間内の目標
1)層序の年代測定と対比 モンゴル国南部の白亜紀陸生層は、溶岩や火山灰層等の鍵層がなく、古地磁気年
代測定も解像度が低い。このため層序確立と国際対比が困難であった。この問題の克服をめざし、(a) 化石の直
接年代測定及び(b)後背地推定による層序の対比を通した年代推定を試みる。こうした研究の基礎的なデータと
なる地質図も作成されていない状況なので、まず、GISを用いて化石を含む層序の分布図を作成する。その上で、
試料採取を行い、(a) 骨化石であるアパタイトの直接年代測定をめざし、アパタイト(骨組織)の生成過程や変
成についてカソードルミネッセンスを用いて解析を行う。(b) 化石を含む堆積層の石英などの鉱物の物性物理学
的計測(電子スピン共鳴、熱ルミネッセンス、カソードルミネッセンス)を行い、堆積層の起源である後背地を
求めるとともに、年代既知の層序との対比を行う。
2)傷病の痕跡や成長停止線の残る骨化石を用いた骨組織学的な検討は、学界の中でも研究が始まったばかり
である。世界的に見て大変保存が良いと言われ、量の多いモンゴル恐竜標本を用い、鉱物についてのこれまでの
研究の蓄積と経験をもって、これらの標本の光学的分析による微細組織の解析と現生生物との比較を行い、恐竜
の成長速度復元や生理機能の進化の段階を明らかにする。 3)化石の骨格組織の解析 恐竜足跡化石サイトの解析、頭蓋や骨化石内部構造の解析は、保存のよいモンゴ
ル標本を対象に行えば、恐竜社会行動が鳥類の行動と比較してどのような段階にあったのか、また神経系や生理
機能がどのレベルに達していたのかなど、量の多さとあいまって、他国の標本では解明できない成果が期待され
ると共に、北米などとの研究成果の比較によって飛躍的な研究の発展が期待できる。
4)両国の学生教育についての合意を形成し、学生が参加する共同調査を実施する。
③特色および独創性
1)研究対象と研究態勢がそろったこの機会に、本学の得意とする最先端の研究手法を駆使してモンゴル恐竜
研究の二つの課題に挑戦することにより、本学を恐竜の学際的研究拠点にできる。同時に大学として、他の科学
分野も含めた国際共同研究を同国のフィールドで進める契機となる。 2)発掘現場体験と国際交流体験を通して、両国の学生の教育と成長に寄与できる。
これら二点はモンゴル国もモンゴルで研究を行っている他国もできていないことである。本学独自のブランド
力として強くアピールし、成果は広報や展示を通して社会に還元する。