生物地球学部・生物地球学科 教授 亀田 修一
生物地球学部・生物地球学科 教授 白石 純
総合情報学部・社会情報学科 教授 徳澤 啓一
情報処理センター 准教授 畠山 唯達
①背景と経緯
本研究の学術的な背景としては、亀田・白石による35年間の吉備地域における考古学的研究がある。なかで
も、吉備を代表する備前焼のルーツである備前邑久窯跡群に関する研究がある。この研究に関しては、平成22
~25年度の科学研究費補助金(亀田ほか2014)、科学研究費補助金終了後に継続した研究メンバーによる私的
な調査によって、多くの成果をあげた。たとえばこれまでほとんどわかっていなかった8世紀後半や10世紀の窯
構造や須恵器の器種構成、流通範囲の広がりなどを明らかにすることができた。
特に、「□□十六年」銘粘土板(墓誌または買地券)、「福」押印須恵器椀、「葛原小玉女」ヘラ書き須恵器
壺など極めて珍しい年号や人名を記した文字資料も検出することができた(亀田2015)。
また、この研究では単に人文科学的な考古学研究だけでなく、胎土分析を専門とする白石や考古地磁気学を専
門とする畠山などの協力を得て、考古学と自然科学を総合化し、先進化させた調査研究方法を用いて、備前邑久
窯跡群の解明をめざした。
このような中で、さらなる備前邑久窯跡群の実態解明、自然科学的調査方法の検討・開発などをめざして、新
たな科学研究費補助金を申請している。しかし、残念ながら採択されず、私的に調査を継続している状況であ
る。採択されなかった研究課題の中での順位は2014・2015年度は「A」ランク、2016年度は「B」ランクであっ
た。
②研究期間内の目標
前述のように、平成22~25年度の科学研究費補助金、およびその後の私的な調査・研究により邑久窯跡群に
関する8世紀後半と10世紀の遺構・遺物に関する多くのデータを入手することができた。しかし約140基ある窯
跡のごく一部しか調査できておらず、さらなる調査研究が必要である。
自然科学的調査方法のうちの、白石の胎土分析研究の成果としては、邑久窯跡群資料の流通範囲が岡山県内の
みならず、四国の讃岐にまでおよんでいることなどを明らかにできた(白石純2014)が、そのほかの中国四国地
方への流通に関してはまだ解明されていない。また、畠山の考古地磁気学的研究では、窯跡の年代推定において
かなりうまくいっているが、その基礎となるモデル再構築に関しては緒に就いたばかりである。 今回の2年間の理大プロジェクトでは、人文科学・自然科学、両者の総合化を進めつつ、より多くの考古資料デ
ータを収集するとともに、胎土分析による新たな流通範囲の解明、考古地磁気年代測定モデルの再構築にむけて
の基礎データ収集、そしてその進展状況の途中経過報告ができればと考えている。
③特色および独創性
本研究の大きな特色とその独創性は、考古学・胎土分析・考古地磁気学的研究などに関わるメンバーが同じ大
学内にいて、研究当初からいろいろと議論をし、どのような地域を選び、どこに窯跡があるのか調べ、どのよう
に発掘調査すればよいのか、そして検出された遺構・遺物をどのように調査・研究すれば、より効果的な成果を
あげることができるかなどを検討していることである。
確かに、このような学際的な研究は近年各地で多少は行われているが、いろいろな大学・研究機関からの集ま
りであり、同じ大学内のメンバーがそれぞれの立場から積極的に忌憚ない意見を述べながら、着実に調査・研究
方法について議論している研究チームはさほどないように思われる。また、白石の胎土分析方法は近年特に評価
され、西日本各地の行政機関などから多くの分析依頼を受けている。
さらに、今回は留学経験を持つ亀田の人脈を生かした韓国の窯跡研究との対比を考えている。このような窯業
研究に特化した日韓共同研究は、これまで例がなく、備前邑久窯跡群のみならず、日本列島内の各地の窯業研究
に新たな視点をもたらすものと考えている。また、白石・畠山の自然科学的調査研究方法は韓国においても一部
なされてはいるが、未だ不十分であり、この共同研究によって日韓の窯業研究に新たな成果・方向性を提示でき
るものと思っている。