工学部 応用化学科 講師 奥田 靖浩
生命科学部 生物科学科 教授 松浦 信康
理学部 化学科 准教授 若松 寛
工学部 応用化学科 教授 草野 圭弘
工学部 応用化学科 講師 牧 涼介
岡山大学 異分野基礎化学研究所 教授 西原 康師
岡山大学 異分野基礎化学研究所 助教 森 裕樹
①本研究の背景と着想に至った経緯
現代社会において、少子高齢化や気候変動、持続可能なエネルギー資源への転換などの社会問題が一層多様化・深刻化しており、これら諸問題の解決に繋がる新たな科学技術イノベーションの創出が求められている。2021年に内閣府は、これらの問題に対応する戦略として、属する組織の「矩 (のり)」を超え、多様な知を持ち寄り新たな価値を創造する『総合知』の活用を提案・推進している。本プロジェクト代表者は、これまで医薬品や材料開発に関する研究を実施してきたが、化合物の合成が困難であった場合に新たな選択肢となりうる方法論が不足しており、更なる合成技術の開拓・深化が不可欠であると実感してきた。こうした背景に鑑み、本学と連携協定先である岡山大学の化学系教員が有する研究シーズを合成化学の総合知『次世代モレキュラーサイエンス』として集約する新たなプロジェクト研究を今回提案する。これにより可能となる研究例として、プロジェクト代表者と無機化学 (固相合成) の研究協力から「固相有機合成 (メカノケミストリー)」、理論化学や有機化学および分子生物学などの分野横断型研究から「AI創薬」など、これまで本学には無い新たな研究シーズの創出も期待できる。
②本研究の目的と研究期間内の目標
本研究の目的は、本学教員が有するものづくり技術を “総合知” としてブラッシュアップし、本学オリジナル医薬品・材料を独自プロセスで効率的に合成するとともに、分子機能の精密チューニング技術としても活用することにある。プロジェクト代表者は従来の化学合成プロセス “物質を混ぜる・加熱する” から機能性分子の開発を行ってきたが、反応収率の向上や反応選択性の制御といった問題に直面し、これを克服する新たな合成方法論の必要性を実感した。2023 年の工学部萌芽的研究において、有機化学と無機化学の連携による「メカノケミストリー」を実施し、固相合成に特有の反応性の発現や、溶解性の乏しい化合物にも適用可能といった新たな知見を得たことから、分子合成における異分野融合の可能性に着目した。そこで本研究では、本学化学系教員の技術協力から新たな分子合成法を開発する取り組みとして『1. 理論計算やAI技術を用いた反応設計』、“光を当てる、電気を流す、物理的応力で固体を粉砕する” といったプロセスを分子合成に利用する『2. ものづくり技術の異分野融合による新たな分子合成法の開発』を実施テーマに設定した。これまでのプロジェクト研究における医薬品開発テーマ「クリックケミストリーと生活習慣病治療薬の開発」、岡山大学との共同による材料開発「含窒素パイ拡張化合物の合成と正孔輸送特性の調査」についても継続し、新たに得られた分子の生理活性や材料特性を分子設計にフィードバックする『3. 合成技術の最適化と分子機能の創造』という合計3テーマに関する研究を実施する。ここでは上記の取り組みを【次世代モレキュラーサイエンス】として広く定義し、化学系における総合知プロジェクトとして実施する。