1. 研究・社会連携部TOP > 
  2. 岡山理科大学プロジェクト研究推進事業 トップページ > 
  3. 岡山理科大学プロジェクト研究推進事業(2021年度) > 
  4. 岡山理科大学プロジェクト研究推進事業
    (2021年度 佐伯)

岡山理科大学プロジェクト研究推進事業
(2021年度 佐伯)

においを嗅いじゃ、ダメですか? ~ノーズワークを利用したイヌのQOL向上への取り組み~

 研究代表者

 獣医学部・獣医保健看護学科 講師 佐伯 香織

 研究メンバー

 獣医学部 獣医保健看護学科 准教授 古本 佳代

 研究目的 

①本研究の背景
 社会の都市化が進む現代において、イヌを取り巻く環境も大きく変化してきている。狩りや護衛のため15000年ほど前に家畜化されたイヌであるが、今やコンパニオンアニマル(伴侶動物)として飼育されることが一般的となり、より人間に近い振る舞いを求められる機会が増えてきた。イヌは順応能力が非常に優れており、多くのイヌが人間社会の変化にもうまく適応してはいるが、元来持つ能力を十分発揮できる機会の減少によって、様々な問題が引き起こされてきたのもまた事実である。

 Dinwoodieら(2019)の報告によると、アメリカを中心に行われた大規模なアンケート調査において、回答した人の飼っているイヌのうち85%に問題行動が認められたという。問題行動には、攻撃性などのように人に直接危害を及ぼす可能性のあるものから、マウンティング(交尾姿勢をとること)などのような人に直接危害はないものの、飼い主がやって欲しくないと感じているものなど様々なレベルがあるが、いずれも困っている飼い主にとっては深刻な問題である。
②本研究の着想に至った経緯
 2006年ごろからアメリカで行われるようになった新しい ドッグスポーツに「ノーズワーク」というものがある。
 ノーズワークは、イヌの嗅覚を刺激させることを通じて探索行動を引き出すことにより、イヌの本能的欲求を満たすことのできるドッグスポーツである。日本においては、2015年に関係団体が設立され普及が進められている。ノーズワークの競技会で用いられる嗅覚刺激はアロマなどの香りであるが、初心者の イヌに対しては、広い室内に設置した箱の中に隠されたおやつを探すことから始まり、徐々に難易度を上げてゆく(図1)。  ノーズワークには、イヌ本来の能力、すなわち「においを嗅いで追跡する」行動を引き出すことにより、問題行動の改善効果があるとされている。また、ノーズワークを行う飼い主に特別な技術を必要としないことや、トレーニングが十分になされていないイヌ、高齢犬、障がいのあるイヌでも楽しむことができることから、術後のリハビリ、認知症予防、障がいのあるイヌのQOL向上など、獣医療的な効果も期待されている。

 しかし現在のところ、ノーズワークの効果については逸話的な報告(トレーナーやイヌの飼い主の体験談)しかなされておらず、エビデンスに乏しいのが実情である。論文として報告されている唯一の事例は、ノーズワークの訓練を一週間受けたイヌに認知バイアステストを行ったところ、脚側歩行(におい嗅ぎは許されない)の訓練を一週間受けたイヌと比較してより楽観的になった、というものである(Duranton and Horewitz, 2019)。そこで申請者らは、初めてノーズワークを体験したイヌが、継続してノーズワークを続けることによって、イヌの行動や自律神経機能にどのような変化をもたらすのか検証することにより、イヌの問題行動に対するノーズワークの効果を実証しようと考えた。

③本研究の目的と研究期間内の目標
 本研究の目的は、逸話的にしか語られていないノーズワークのイヌに対する効果を実証することである。申請者らが行った予備的な検証では、ノーズワークを始めたばかりのイヌは、初め目視でおやつを探そうとするが、徐々に視覚ではなく嗅覚でおやつを探すようになってゆくということ、すなわちイヌは練習しないと鼻を使うことができなかったということが明らかとなった。

 また、ノーズワーク中のイヌの心拍数測定を行ったところ、ノーズワーク上級者のイヌは、初心者のイヌと比較して心拍数のばらつきが小さい、すなわちノーズワークを続けてゆくうちに自律神経系が安定するという可能性が示唆された。

 本研究では、2年の研究期間の間に、本学獣医保健看護学科で飼育されている実習犬(ビーグル)8頭を用いて継続的にノーズワークを行い、行動データ、自律神経系のデータを同一のイヌより経時的に採取することで、人間社会で生きてゆかなくてはならないイヌにとって、ノーズワークが有益なものであるかどうかの検証を行う。

PAGE TOP